SEバックナンバー

セイフティ・エンジニアリング「最新号~167号」

173号/平成25(2013)年12月1日発行 

巻頭言
  公益財団法人総合安全工学研究所の役割

 

   東京大学名誉教授
公益財団法人総合安全工学研究所理事長              田村 昌三

 巻頭言(pdf版) を読むことができます

首都高速道路の維持管理と安全、安心を確保するための取り組み

 首都高速道路株式会社 神奈川管理局保全部長
谷 雅史

 首都高速道路は昭和37年の最初の供用から50 年を迎え、高齢化する道路施 設の維持管理が重要な課題となっている。また、昨年のトンネル天井板落下事 故を受け、より一層安全の確保が重要となり、さらにインフラの更新時代とい うような話題もマスコミに多く取り上げられている。そのような状況における首 都高速道路の維持管理と、今後の大規模更新などの実施に向けた取り組みを 紹介する。

ロールボックスパレット使用時に発生した
比較的軽微な労働災害とその対策

 独立行政法人労働安全衛生総合研究所
人間工学・リスク管理研究グループ 研究員
大西 明宏

 ロールボックスパレット(RBP)と呼ばれる荷役機器に起因する休業4日未満 の労働災害事例を分析したところ、手部や足部の激突・はさまれ、足部のキャ スター踏まれ、頭部・顔面部・歯への激突が代表的な災害パターンであること がわかった。これら災害の防止にはRBP 作業のマニュアル化、マニュアルを活 用した安全教育の徹底が求められる。また、手や足部を保護するプロテクター やつま先部を保護する作業靴を使用することで、負傷リスクの低減に努めるこ とも重要である。

火災検知におけるCO センサの有効性について

新コスモス電機株式会社 取締役専務執行役員
ガス警報器工業会 理事
松原 義幸

 住宅用火災警報器の設置義務化とその普及に伴い住宅火災における死者数は 減少したものの、依然年間1, 000人を超える犠牲者がある。その死因の多くが 一酸化炭素中毒(CO)である。本稿では、このような状況を鑑み、住宅におけ るCOセンサの普及例と、弊社にて実施した火災再現実験におけるCO 発生の 状況や特徴から火災におけるCO の脅威の一端を紹介し、住宅用火災・CO 警 報器などで搭載されているCOセンサが住宅火災における火災早期検知に有 効であることを述べる。

医療用ロボットの安全(標準化に関する一考察)

東京大学大学院工学系研究科 教授
佐久間 一郎

 医療用ロボットは直接患者あるいは医療従事者に接触/ 近接して使用されるた め、安全のために新たな機能が要求される。そのためには、人と機械系の相互干 渉領域の大きさの最小化、適切な緊急停止手法の実現などが求められる。リスク アセスメントでは医療用ロボットが行う医療行為と医療情報取得の自立性の観 点から機能を議論することが有効である。自立性を規定するソフトウェアの安全 は重要な論点であり、関連する国際的な標準化動向にも注意を払う必要がある。

バイオテロに使用されるおそれのある病原体と生物毒素

警察庁科学警察研究所 法科学第一部生物第五研究室 室長
水野 なつ子
警察庁科学警察研究所 法科学第三部化学第五研究室 室長
大森 毅

 これまでに炭疽菌芽胞やリシンが入った郵便物を送りつけるなどの事件が発生 し、さらにこれらを模倣した事件が相次いでいる。このようないわゆるバイオテ ロには極めて危険性の高い病原体や生物由来の毒素などが用いられる。本稿 では病原体として炭疽菌を、微生物由来毒素としてボツリヌス毒素を、植物由 来毒素としてリシンを、プランクトン由来毒素としてサキシトキシンを取り上げ て解説する。

一覧表にもどる

172号/平成25(2013)年9月1日発行 

巻頭言
  社会機能維持者としてのリスクマネージメント

 

   太陽石油株式会社代表取締役社長
             岡 豊

新幹線の巨大地震に対する備え

 明星大学理工学部総合理工学科機械工学系 教授
 元 公益財団法人鉄道総合技術研究所
石田 弘明

 鉄道は開業以来、自然災害を防ぐために防災技術の開発と導入を進めてきた。 しかし近年は、災害を防ぐ防災から災害を減らす減災へと考え方を見直し、効 果的に対策を講じながら巨大地震に備えている。本稿では、設備対策、地震検 知・警報システム、走行安全性の確保という三つ観点から進められている新幹 線の地震対策、東北地方太平洋沖地震での新たな経験、さらなる安全・安定輸 送を目指した研究開発の事例について紹介する。

リスクベースメンテナンスの意義と導入にあたっての課題

 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 教授
酒井 信介

 本稿では、社会インフラストラクチャーに対する信頼性の構築に関して、メンテ ナンスの観点から、近年の動向、基本的考え方を紹介する。社会インフラストラ クチャーは、経年化の進行とともにメンテナンスの比重が高まる。一方で、経済 動向の不況が長引けば、産業界としてはあらゆる経費の削減が求められること になる。このような状況のもとで、重要となる、維持基準やリスクベースメンテ ナンスの基本的考え方、課題について概説する。

セルオートマトンによる避難行動シミュレータの開発

株式会社アルモ設計 建築設計部 次長
篠崎 喜彦
横浜国立大学大学院環境情報研究院 教授
森下 信

 建築技術の進歩に呼応して建築形態の巨大化・多様化が加速しているが、そ れに伴い建物の避難安全評価の要求が増加している。特に東日本大震災以降 では、火災時の避難安全性能評価だけでなく、現実的な避難状況予測に対し て社会的要求が高まってきており、避難行動のモデル化によるコンピュータシ ミュレーション研究が再び注目を集めている。このような要求に対応するため の実用的な避難行動シミュレータ開発の取組みを紹介する。

人体各部の寸法・動作速度に基づいた
安全防護物の設置位置の基準

独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
機械システム安全研究グループ 上席研究員
齋藤 剛

 機械のリスク低減のために様々な安全装置が利用されているが、これらが有効な リスク低減方策となり得るには、人の接近を検出してから機械が停止するまでに 人が危険区域に到達できないことが条件となる。このための各種装置の適切な 設置位置を定めた規格がISO 13855であり、実際の使用を通じて2010 年に第 2 版に改正され、国内での一致規格JIS B 9715は今年5月に改姓された。本稿 では第2 版での変更点を中心に各種装置の設置位置の定め方を概説する。

陽電子消滅による材料安全性評価

京都大学大学院工学研究科 教授
白井 泰治

 プラスの電荷を持つ電子である陽電子(ポジトロン)を、材料劣化の非破壊検 査に活用する技術を紹介する。社会基盤や輸送機器を構成する鉄鋼材料や ジュラルミンなどの金属材料の経年劣化を、事故に至る前に非破壊で検出し、 余寿命を診断することにとって、安全・安心な社会の構築に少しでもお役に立 てることを目指している。

一覧表にもどる

171号/平成25(2013)年6月1日発行 

巻頭言
  ガス事故防止に向けた取り組み

 

  新コスモス電機株式会社代表取締役社長
             重盛 徹志

どこまで安全を求めるか

 東京農工大学 工学府産業技術専攻 教授
中村 昌允

 全てのリスクに対応することは困難である。日本社会の安全認識は「リスクゼ ロ」であるが、「グル―バルスタンダード」は受け入れ不可能なリスクのないこと である。日本の法規制は、リスクアセスメント指針にみられるように、ALARP の概念を取り入れており、日本の安全管理は『絶対安全』から脱却して、重大事 故を防止する『リスクベースの安全管理』に移行していく必要がある。 福島原発事故から、重大で不可逆な事故は、譬え、発生確率が低くとも起こし てはならないという観点もこれからの安全管理に必要である。

なぜ、そしてどのような公共投資が必要なのか

慶應義塾大学 経済学部 教授
井手 英策

 日本財政、最大の特徴は減税と公共投資を組み合わせた土建国家的統治シス テムにあった。この手法には、中間層を宥和しつつ、所得階層間、地域間再分配 を可能にし、さらにはローカル・コミュニティも保守するという社会経済的な合 理性があった。現在、これに代わる統治メカニズムが見出されないままに、土建 国家への逆流が生じ始めている。そうした大きな流れのなかで、これからの公 共投資はどのように位置づけていくべきなのか考えてみたい。

ゼロエミッションと持続可能社会

横浜国立大学大学院 環境情報研究院 教授
藤江 幸一

 限られた資源を有効活用するためには、廃棄物や未利用物質の排出に対して、 その発生源すなわち生産プロセスやライフスタイルにまで遡り、廃棄物のリサ イクルや未利用資源の有効利用、ライフスタイルの見直しなどを通して、資 源・エネルギーの有効活用と環境負荷低減をあわせて実現する必要がある。人 間活動に必要な機能を過不足なく提供できる持続可能社会の実現に向けて、 日本が取り組むべき対策について紹介する。

社会基盤を支えるコンクリート構造物の安全性と耐久性

横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 准教授
細田 暁

 わが国の社会基盤を支えるコンクリート構造物の重要性、世界一の地震国にお いて国民の安全を守るための構造物に期待される性能と、これまでの耐震性能 の変遷について概説する。コンクリート構造物に期待される供用年数は非常に 長く、融雪剤の影響を含む過酷な環境で耐久的な構造物を建設することの難し さと、それを達成するための具体的なビジョンについて述べる。現在、東北の復 興道路の建設において品質確保プロジェクトが動き始めている。

消防法令の改正の契機となった地震災害事例

危険物保安技術協会 事故防止調査研修センター長
伊藤 英男

 地震における危険物施設の被害は強震動によるタンク本体や配管の損傷、ス ロッシングによる浮屋根などの損傷及び漏洩、液状化によるタンクの沈下が主 な起因となり、タンク本体と配管の接合部付近の損傷による大量漏洩、また、 津波による被害も多く、地震を契機として法令改正となった主な災害について 紹介する。

一覧表にもどる

170号/平成25(2013)年3月1日発行 特集号 「災害と対策」

巻頭言
  特集号発行によせて

  横浜国立大学大学院 工学研究院 教授
セイフティ エンジニアリング編集委員長
             福富 洋志

3.11津波の被害分析と今後の津波防災

 早稲田大学理工学術院 教授
横浜国立大学名誉教授
柴山 知也

 東北地方太平洋沖地震津波では、あらかじめ津波が予測されていたにもかかわ らず、それをはるかに上回る規模の津波が来襲し、「想定外」の事態により多く の被害者が生れた。その後、全国規模で津波ハザードマップの再検討を行い、 県レベルでの津波被害想定を見直す作業が行われた。これまで生起する確率 が低いと考えられて防災計画に含まれていなかった津波にも焦点を当て、歴史 津波の検討とともに数値予測の波源モデルを修正して、予想津波高をより高く 設定しなおす必要があった。

リスクが極めて高いシステムに対する安全設計思想について
-原子力発電に対する一考察-

明治大学理工学部 情報科学科 教授
向殿 政男

 事故に学んでシステムの安全性を高めていく再発防止策は、これまで多くの安 全分野で実効性のある手法として実施されているが、リスクが極めて高いシステ ムでは、事故に学ぶには、今回の福島原子力発電の事故に見るように、余りに も悲惨すぎる。事故の未然防止のためには、設計の段階から安全設計の根本 に戻り、安全の原則に基づいて論理的に、構造的に安全を築き上げていくしか 方法はない。 本稿では、事故の頻度は極めて小さいが、リスクが極めて高いシステムに対する 安全設計の考え方について述べる。

直下型地震と化学プラント

東京大学 環境安全研究センター 教授
安全工学会 地震被害調査委員会 委員長
新井 充

 2011年3月11日の東日本大震災のちょうど1ヵ月後、福島県いわき市は、その 余震と考えられる震度6強の地震に再び襲われた。その地にあった化学プラン トが経験した地震加速度は、500ガルを超える直下型地震であった。安全工学 会では、世界でもほとんど例がないと思われる直下型地震に襲われた化学プラ ントの事例につき、当該プラントの協力を得て被害状況および対応などの調査 を行ったのでここに報告する。

医療施設が地震に襲われたときの評価実験

独立行政法人防災科学技術研究所
兵庫耐震工学研究センター 主任研究員
佐藤 栄児

 地震においてどのような被害が発生し、それらを防ぎ機能させ続けるために、医 療施設はどうすべきかを検証するため実大三次元震動破壊実験施設(E-ディ フェンス)を用い、実大の医療施設を模擬した試験体に地震動を与えて評価実験 を行ってきた。免震構造、耐震構造の医療施設に直下型の地震動や長周期地震 動を与え、地震被害予測や病院機能保持のための対策手法を検証評価した。そ れらの実験内容および結果を紹介する。

地震被害を受けた建築物の復旧工事における注意点

独立行政法人労働安全衛生総合研究所
建設安全研究グループ 上席研究員
高梨 成次

 日本は地震多発国であり、東海地震や首都圏直下型地震の発生が危惧されて いる。これらにより、相当数の建物が被害を受け、補修工事などが必要になる。 そのため労働者は、被害を受けた建物に近接する必要がある。しかし、被害を 受け不安定になった建物が、大きな余震を受けると倒壊する危険性が高くな る。本稿では、地震によって被害を受けた建物の倒壊危険性を損傷状況から推 定する方法と震災後の混乱時においても実行可能な簡易な倒壊防止対策の効 果について記すこととする。


一覧表にもどる

169号/平成24(2012)年12月1日発行

巻頭言
  安全と企業の社会的責任

  株式会社日陸 代表取締役社長
             能登 洋一

災害における危機管理
-東日本大震災から安全を考える-

 株式会社三菱総合研究所 リサーチフェロー
横浜国立大学 客員教授
野口 和彦

 安全な社会を構築するためには、東日本大震災がわれわれに示したものをしっ かりと受け止め、未然防止とともに危機管理力を高めていくことが重要である。 危機管理は、どのような危機が発生するかを考え、準備することから始まる。危 機時には情報が不足し状況が把握できず、用意していた対応策も機能しないこ ともある。その中で優先順位の高い事象から、確実に対応していくことが必要 である。

サイバーセキュリティ

プロックスシステムデザイン株式会社
執行役員
川口 賢

 日本企業や政府機関などへの大規模なサイバー攻撃が激しくなり、攻撃手法の 高度化が進んでいるだけでなく、個人情報や金銭等の不正取得を目的とした 個人向けの攻撃も増加している。インターネットを利用するすべての人はサイ バー攻撃を受ける可能性があるにもかかわらず、日本人のインターネットセキュ リティに関する意識は低い。より安全にインターネットを利用するために、リス クを明確化し対策の必要性を知り、適確な対策の実践が必要である。その一 部について紹介する。

保安機器の開発について

東京ガス・エンジニアリング株式会社
企画部 事業化推進グループ
安部 健

 ガス会社の研究者としてセンサ開発に従事した経験を元に、現在までガス事業 以外を含む様々な分野の保安関連の機器開発に携わってきた。それらの技術 開発の中から、航空保安向け液体物検査装置(キーワード:ユーザー視点の技 術開発、以下同様)、ガス配管の漏洩試験器(解決すべき問題の抽出)、下水道 処理施設における可燃性ガス検知装置(柳に風)について概説する。

事故分析手法PFA の概要

(独)産業技術総合研究所 安全科学研究部門
爆発利用・産業保安研究グループ
研究グループ長
和田 有司

 (独)産業技術総合研究所の「リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)」 において、事故を時系列で整理して分析した「事故進展フロー図」を作成する 手法として発展してきた「事故分析手法PFA」の概要と効用を実施手順を含め て解説した。「事故分析手法PFA」は、グループによる議論まで行うことによっ て、グループ内で経験や知識を共有でき、組織全体の安全意識の向上に役立 てることができる。

静電気による災害事例と対策

(独)労働安全衛生総合研究所
電気安全研究グループ
上席研究員
山隈 瑞樹

 静電気に起因する爆発・火災事例から、教訓的なもの4件についてその発生機 構および対策について解説する。取り上げた事例は、スプレー缶による噴射剤 の爆発、石油タンク清掃時の火災、バグフィルタ式集じん機における粉じん爆 発、およびフレキシブルコンテナ使用時の粉じん爆発である。いずれも最近の 労働現場の実情を反映したものであり、同種災害の再発防止に役立つ内容と なっている。


一覧表にもどる

168号/平成24(2012)年9月1日発行

巻頭言
  本質安全の追及

  横浜国立大学大学院 環境情報研究院 教授
             三宅 淳巳

自律的な産業安全を考える

 経済産業省原子力安全・保安院
産業保安研究官
武富 義和

 日本の規制は既に自主保安体制に移行したが、期待とは裏腹に大事故も発生し、最近では高経年化、現場力の低下に伴う事故も増加傾向を示している。筆者は、この現状を打破するためには規制という受け身での対応では不十分であり、学協会等民間による自律的な取り組みが重要であると認識している。その観点から、一例として、これを具現化しようとしている安全工学会提唱の保安力評価システムについてその概要を紹介している。

安全管理のためのヒューマンファクターズ

早稲田大学理工学術院 創造理工学部
経営システム工学科 人間生活工学研究室 教授
小松原 明哲

 大規模化する社会技術システムが安定、安全に機能し続けるためには、ヒュー マンエラーを起こさせない従来型のヒューマンファクターズに加え、安定を 損ねる脅威に対抗し、「現場力」でもって安全を確保するヒューマンファク ターズのアプローチが求められる。これがレジリエンス・エンジニアリング である。組織はこの二つのヒューマンファクターズのアプローチを適切に組 み合わせ、安全を確固たるものにしていくことが求められている。

航空保安

財団法人空港保安事業センター
教育事業部教育課 課長
金澤 三津恵

 世界的に国際テロ対策が強化されてきており、航空機や空港での関連施設などへのテロ対 策が国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づき重点的に進められてきている。わが国でも手荷物や 航空貨物に対する保安強化、空港警備の徹底など実施されている。 それらは、テロの現状に応じて対策が取られてきており、新たな脅威に対する ものや、保安システムの脆弱な部分を補完するために既存技術の改良や、 新たな検査システムの導入など検討を進めて、保安体制をさらに強化し てきている。こうした保安=セキュリティについて背景や、国際的な取り組み、今後の 課題について紹介する。

テロ・犯罪対策、災害対策など
安全・安心な社会の構築に関する科学技術政策

文部科学省科学技術・学術政策局
科学技術・学術戦略官付(調整・システム改革担当)

 第4期科学技術基本計画では、国として取り組むべき重要課題の一つとして、 「安全かつ豊かで質の高い国民生活の実現」を掲げ、これを踏まえ文部科学省 では、安全・安心科学技術について、テロ・犯罪対策技術に係る研究開発とと もに、平成24年度からは東日本大震災で顕在化した都市・地域の脆弱性を克 服するため、安全・安心な都市・地域の構築に係る研究開発を開始することと しており、本稿ではこれらの取組を紹介する。

情報・物理セキュリティ技術とその評価

 横浜国立大学大学院 環境情報研究院 教授
松本 勉

 情報に係るシステムやサービスにおいてその重要性が各所で叫ばれているセ キュリティにつき概観する。各種の情報・物理セキュリティ技術の要点を紹 介するとともに、その評価が大切であるが、暗号など、セキュリティの数学的 証明ができるといった先進的な評価技術があるものもあれば、古典的なもの もある。古典的ではあるが注目を浴びた方法としてバイオメトリクスのセ キュリティ評価技術を例示する。イタチごっこの断ち切りを目指したセキュ リティの研究に興味はつきない。

一覧表にもどる

167号/平成24(2012)年6月1日発行

巻頭言
  災害と身元確認

  科学警察研究所 所長
             福島 弘文

メガフロート(超大型浮体構造物)の安全性

 東京大学大学院 新領域創成科学研究科
   海洋技術環境学専攻
              鈴木 英之

 メガフロートは、浮体構造物と係留システム、必要に応じて設置される海域制御システム、さらに上載構造物、陸上連絡施設からなる構造システムである。メガフロートを構成する個々の構造物はそれぞれ確立された設計法に基づいて設計されるが、これらの構造物を組み合わせた構造システムとして、メガフロートが必要な安全性レベルを達成しているかという問いかけがある。これに答えるためにリスク解析の手順に沿って、破壊シナリオの抽出、破壊シナリオの発生確率の評価について行われた取り組みを紹介する。

火災の事故調査

科学警察研究所 法科学第二部
萩本 安昭

 火災の原因調査について、出火原因を判定するまでの調査の手順に沿って、いかにして出火範囲を限定して出火場所を絞り込み、出火原因の判定に至るかということについて解説した。特に、焼け方の特徴など現場に残る痕跡、ガソリンや灯油などの液体可燃物と着火源の関係、たばこによる火災、電気による火災などの具体例を挙げながら、基本的な考え方と誤りやすい注意点について解説した。

爆発の事故調査

総合安全工学研究所 事業部長
中村 順

 爆発事故は、いったん起こると人的被害、物的損害も大きく、社会的にも重大な問題となる。事故原因を究明するということは、事故を防ぐ目的で行うものであり、そのためには事故現場の調査が最も大切である。爆発事故はいろいろなことが複合して起こる。これらを見落としたり、偏ることなく判断して原因を究明することが求められている。そのための事故調査方法について紹介する。

「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」の制定まで

その時代背景、条例の内容、そして現状と課題

地方独立行政機構 
神奈川県立足柄上病院 副院長
 (元神奈川県保健福祉部健康増進課長) 
 玉井 拙夫

 たばこの害については、発がんとの関連をはじめ、呼吸器障害、動脈硬化との関連が科学的に証明されてきた。1980年代には受動喫煙の健康影響が指摘され、世界的に法によるたばこ規制が始まった。神奈川県では国に先駆けて、「受動喫煙防止条例」を平成22年4月にスタートさせた。受動喫煙による健康への悪影響から県民を守るための公共的空間における新たなルールとしての条例成立までを述べる。

多剤耐性菌

 東京大学大学院 医学系研究科
病因病理学専攻感染制御学教授
    東京大学医学部附属病院
 感染対策センター長
 森屋 恭爾
 東京大学医学部附属病院
 感染制御部助教
 龍野 桂太

 ラクタム系抗菌薬、アミノグリコシド系抗菌薬、キノロン系抗菌薬、この3タイプが現在用いられる主要な抗菌薬だが、多剤耐性菌はいずれの抗菌薬も無効である。抗菌薬使用に伴って耐性菌が増加するため、まずは抗菌薬が多様される病院内で拡がりをみせていた。しかし、近年は病院外の市中でも報告されるようになってきており、医療界だけの問題ではなく社会全体の問題として、抗菌薬使用と多剤耐性菌について考える必要がある。


一覧表にもどる